私達は最近、ハダカデバネズミ(以下デバ)では炎症誘導性の細胞死であるネクロプトーシスに必須の遺伝子機能が喪失し、これが組織の炎症応答の減弱と発がん耐性に関与していることを見出しました。また、デバでは老化細胞が種特異的なメカニズムにより細胞死を起こすこと明らかにしました。この機構は老化細胞の蓄積抑制を介し、デバ組織の慢性炎症抑制にも寄与すると考えられます。他にも、海外のグループからはデバのヒアルロン酸合成酵素を高発現させたマウスでは炎症応答が低減し、寿命が延びることが報告されています。これらの研究から、デバの老化・がん化耐性には組織の炎症が起こりにくいことが重要であると考えられますが、その根本的なメカニズムはいまだほとんどが不明です。本プロジェクトでは、デバの炎症応答に焦点を当て研究を進めています。
研究例
ハダカデバネズミは化学発がん物質に対しても強い耐性をもつ
ハダカデバネズミががんになりにくいことはこれまで報告されてきましたが、細胞レベルでのがん耐性機構が盛んに調べられる一方で、生体レベルでのがん耐性機構はほとんど明らかになっていませんでした。
当研究室では、ハダカデバネズミの生体に対して発がん性物質を投与する実験を実施することで、人為的な強い発がん誘導に対しても観察した限りでは全くがん化しないことを明らかにしました。さらに、ハダカデバネズミは発がん過程の促進に重要な炎症応答を起こしにくいことがわかりました。その一因として、炎症誘導性の細胞死に関わる遺伝子がハダカデバネズミで機能を失っていることを発見しました。
現在進行中のプロジェクト
・炎症関連遺伝子における種特異的配列変化の探索および機能解析
・炎症関連遺伝子発現ネットワークの網羅的解析